「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第80話

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自キャラ別行動編(仮)
<冒険者ギルド>



 その日、バハルス帝国の衛星都市、イーノックカウの冒険者ギルドには上質な服を着た女性と子供、そしてその二人に使えているのであろう執事とメイドと言うその場に似つかわしくない集団の姿があった。



 「へー、結構小奇麗なのね」

 私、まるんは目の前の冒険者ギルドの建物を見て感想を洩らす。
 ゲームならともかく現実世界の冒険者ギルドはもっと何と言うかこう、 荒くれどもが集っていて物々しい雰囲気なんじゃないかと想像していたのに目の前の建物は思いの他ちゃんとしていて、まるでこの世界のちょっといい宿屋のような造りだったからなのよね。

 そんなことを考えての発言に対して私のすぐ横から理由を説明してくれる優しい声が聞こえてきた。
 カルロッテさんだ。

 「それはそうですよ。酒場も併設してはありますが、ここは冒険者ギルドなのですから。冒険者だけでなく依頼人として商人や時には貴族の使いの方も訪れます。それなのに、まるん様が想像なさっているような外見でしたら、怖くて依頼者が近寄れなくなってしまいますよ」

 そう言って彼女は笑った。
 なるほど、確かにギルドには冒険者だけじゃなく依頼人も来るんだよね。
 それなのにあまりに物々しい外見では業務に差支えが出ると言われれば確かにその通りだ。

 そう考えながら私はギルドの入り口をくぐる。
 すると一斉に集まる視線。
 1階に併設されていると言う酒場に居た冒険者たちが私が入ってきた気配に反応してこちらに目を向けたんだけど、その視線はすぐに興味を失ったかのように私たちから外されていった。

 「う〜ん、なんか一斉に見られたけど、すぐに無視されちゃった。子供がこんな所に何のようだ! なんて絡まれたりするのかと思ったのに」

 「クスクス。まるん様、冒険者をいったいなんだと思われているのですか? 先程も言いましたけどここは依頼人も訪れる所なんです。新人冒険者相手ならともかく、まるん様の外見では依頼人としか思えないのですから、これから自分たちの雇い主になるかもしれない人に喰って掛かる馬鹿はいませんよ」

 私の考え方がよほど面白かったのか、クスクスと笑いを洩らすカルロッテさん。
 かわいいなぁ、これで29歳だというのだから、10代の頃はどれだけ可愛かったんだろう?
 エルシモさん、よく捕まえたなぁ。

 それはともかくとして。
 そうかぁ〜、なんかちょっと残念。
 よく物語に出てくる意地悪をしてきた先輩冒険者を、軽口を叩きながら叩きのめして自分の強さをまわりに見せ付けるってのをやってみたかったのに。

 でもまぁ、確かにメイドと執事をつれた冒険者なんているはずがないし、もし美味しい依頼を持ってきた人に絡んでその依頼を受ける事が出来なくなったなんて事になれば自分たちが困るのだから、どんな依頼か聞き耳を立てる人は居るかもしれないけど、入ってすぐに問題を起こそうなんて考える人はいないよね。

 気を取り直してギルドの受付カウンターへ。
 当然冒険者登録なんてする訳がないから、依頼や問い合わせ担当の職員が居る場所へと向かった。

 すると、

 「いらっしゃいませ、イーノックカウ冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」

 受付のお姉さんが笑顔でカルロッテさんに話しかけた。

 まぁそうだよね。
 実は子供の私が主人とは誰も考えないだろうし、この一行を見たら私でもカルロッテさんに声をかけると思うもの。
 ただ、その後の反応が私の予想の斜め上を行く事となったんだけどね。

 「って、もしかしてカルロッテさん? どうしたんですか、そのお貴族様のような格好は? 結婚相手のエルシモさんが大成功したって話も聞かないし、喧嘩別れでもしてその後、どこかの貴族か大商人に見初められでもしたの?」

 「リーナさん、お久しぶりです。いいえ、私は今、イングウェンザーと言う都市国家の女王様であるアルフィン様に夫共々雇われているんですよ。それで今日はこの」

 そう言ってカルロッテさんは私の方を向き、

 「まるん様の案内人兼書記官として同行しているのです」

 「そうなの、でも見違えたわぁ」

 この受付の人、なんとカルロッテさんが冒険者時代から付き合いがある人だったのよ。
 ここへ来る前の打ち合わせの段階では、カルロッテさんは冒険者相手の受付担当者とは面識があるけど依頼人受付の受付担当者とは面識がないから、受付に着いたら対応してくれた人に事情を話して知っている人に変わってもらうと言う話だったけど、嬉しい誤算って奴? よけいな手間が省けたわね。

 「それで、案内人としてここへお連れしたと言う事はやっぱり依頼があって?」

 「それが違うの。今度カロッサ子爵様のご紹介で都市国家イングウエンザーの商品をこの都市に輸出する事になったんだけど、この国の今の情勢がカロッサ子爵様にお聞きしても今一歩解らないからここに来たと言う訳。冒険者ギルドなら色々な情報、入ってるだろうしね」

 そう、今回私たちが冒険者ギルドに訪れた理由はこれ。

 イングウェンザー城が転移して来た場所はこの国、バハルス帝国の東の外れだから中央とか隣国の情報がとにかく少ないのよ。
 カロッサさんもケンタウロスを牽制する役目についているから、普段からあまり自分の領地を離れられないという理由でその手の事はあまり詳しく知らないみたいだったし。

 そこで諜報が得意なモンスターやNPCを密偵にして送ろうかと言う話になったんだけど、もし他のプレイヤーがいたり何かのトラブルで他国と事を構えるなんて事になったら困ると言う話になったのよね。

 そこでマスターが出した結論は、元冒険者のカルロッテさんも居るし、大きな町の情報が集まる場所まで行って普通に集めると言う物だった。
 現地の人と繋がりがある人が一緒なら、わざわざ苦労しなくても簡単に手に入るからって。

 「なるほど。では依頼は冒険者ギルドの情報の買取ね」

 「えっ? お金取るの?」

 と言う訳で、ここでの話はカルロッテさんの知り合いが居たら彼女に丸投げするって事になっていたんだけど、どうやら彼女にとって予想外の事があったみたい。
 カルロッテさんは相手が知り合いだし、ちょっとした情報くらいなら雑談程度に教えてもらえると思っていた様なんだけど、どうやら情報も売り物だからと言われて驚いたといった感じかな?

 「それはそうよ、道で偶然出会って立ち話をするのならともかく、ここは冒険者ギルドなんだから。情報も商品です」

 「そんなぁ」

 昔の知り合いの無碍な態度に、少しすねたような顔をするカルロッテさん。
 その姿は一児の母とは思えないくらい可愛らしい。
 そんな姿をもう少し見ていたい衝動にも駆られたけど、ここで延々と立ち話をし続けていてはもしこのギルドに依頼を持ち込む人が現れたら邪魔になってしまうからね、私は話に割り込む事にした。

 「情報が有料と言うのは当然の話ですね。それで、情報量はおいくらですか? 手持ちも少ないし、白金貨1枚くらいで足りるといいのですけれど」

 「はっ白金貨ぁ? そそそ、そんなに要りません。この都市の情報だけなら銀貨1枚、この国の最近の情報も含むのなら銀貨3枚、近隣の国の情報まで含めた場合は銀貨5枚から最高で金貨1枚になります」

 私の言葉にリーナと言う受付嬢は目を白黒させながら金額を答えてくれた。
 町の情報だけなら日本円で大体1万円くらいで、世界情勢全てなら10万円くらいか。
 うん、妥当な所ね。

 「解りました。ギャリソン」

 「はい、それでは金貨1枚分の情報でお願いします」

 私がギャリソンに声をかけると、彼は重そうな皮袋から金貨を一枚だしてカウンターに置く。
 するとそれを見たリーナさんは、恐る恐るといった感じで私に話しかけてきた。

 「あのぉ、宜しいのですか? 普通は銀貨3枚、多い人でもまず5枚支払ってから追加の情報が欲しい時だけ残りをお支払いになられるのですが?」

 「大丈夫ですよ。今必要な情報が銀貨5枚の中に含まれていたとしても、もしかしたらそのほかの情報の中に今後の私たちにとってもっと重要な情報がまぎれているのかもしれませんから」

 実際私たちにとって何が重要で何が重要じゃないかなんて解らないんだから、集められる情報は全て集める方がいいと思うのよね。
 何かを決断する時は判断材料になるものが多ければ多いほどいい。
 一見何の意味もなさそうなほんの小さな情報でも、後になって見ればそれを知っていればこんな失敗はせずにすんだのにと後悔する結果になるなんて事もよくある話なのだから。

 「解りました。ではこちらへ」

 そう言うと、リーナさんはカウンターから出て二階へと繋がる階段へと私たちを案内した。

 カルロッテさんが言うには、どうやら冒険者ギルドでは冒険者同士の話し合いや、護衛などの依頼者との契約は二階にある個室で交わされる事になっているみたいで、1階のカウンターで行われるのは任務終了の報告とか倒したモンスターの素材や討伐部位の買取だけなんだそうな。

 と言う訳で、私たちは二階の奥の方にある、商談専用の部屋に通される事になった。
 別に商談する訳ではないんだけど、金貨1枚分の情報となると誰かにただ聞きされる訳にもいかないから、防音がしっかりしているこの部屋に通されたんだってさ。

 「それではどこから話しましょうか?」

 「まずこの都市の情報を。商売上知っておいた方がいい情報とか、気を付けなければいけない事とかですね。あと、このごろの犯罪の発生率や普段と違う所。たとえば近くの街道に野盗とかモンスターが出るとか、治安警備の状況とかが解るとありがたいです」

 安全なのに物々しい護衛をつけて移動したりしてはやはり目立つだろうし、逆に危険な状況なのに護衛が少なすぎても面倒ごとを呼び寄せる事になる。
 何が襲ってきてもどうと言う事はないけど、別に自分から災いを引き寄せる必要はないのだから、この手の情報はまず真っ先に仕入れておくべきなんじゃないかな?

 「そうですね、まずは」

 そう言ってリーナさんは話し始めた。
 それによると商売上での気を付けなければいけない点と言うのは昨日商業ギルドで聞いた話と大差ないみたい。
 治安に関してはイーノックカウ周辺の街道や町の表通りは兵士が見回っているから特に危険はないけど、このごろ兵士の数が減っているので裏道まで目が行き届いていないから、そちらにはしばらくの間は近づかない方がいいらしい。

 「兵士が減っているのですか?」

 「ええ。と言っても一時的な話です。毎年我が国はこの次期になると隣国と戦争をするのですが」

 「ああ、隣のなんとかって王国と毎年戦争しているんですよね?」

 この話は知ってる。
 相手の国を弱体化させるために、毎年作物の収穫で忙しい時期を狙って戦争を仕掛けてるんだってね。
 とは言っても実際は殆ど小競り合い程度で双方たいした被害が出ることはないってカロッサさんが言っていたって、マスターが話してくれたのを覚えている。

 「ええ、仰るとおり毎年リ・エスティーゼ王国と戦争をしています。しかし今年はいつもの年と少々状況が違っていまして」

 「何か特別な事でも?」

 なんだろう? 相手国が強力な兵器とかを手に入れたとかかな?

 「はい。どうやら皇帝エル=ニクス陛下のご友人を新設された爵位である辺境侯と言う名の新たな大貴族としてお迎えになるにあたり、皇帝と帝都を守る第1軍を除く7軍の将軍全てを招集なさいました。それに伴い、都市や領地を守る最低限の人数を残して6万もの兵士が今年の戦争に参加する事になったのです。その為、今このイーノックカウの兵士は通常よりかなり少なくなっていると言う訳なのです」

 へぇ〜、友人を大貴族にしてそれをお披露目する為に毎年小競り合いしかしない戦争に大軍を投入するのか、それはまた豪気な話だね。

 でも、人を集めて戦争をすると言うのはそれだけ大きなお金が動くものだし、その辺境侯とか言う貴族を皇帝陛下がいかに大事にしているかを国内外に知らしめるにはいいパフォーマンスなのかも。
 毎年小競り合いしかしないのなら、間違って大被害が出るなんて事も無いだろうしね。

 「なるほど。でも他国の人間である私に、今この国の兵士が一箇所に集まっていて警備が手薄だなんてこと、話してよかったの?」

 「はい。何せ金貨1枚の情報ですから。とまぁそれは冗談として、これだけの軍の大移動ですから隠そうとしても隠し通せる物ではありません。この情報は敵である王国ですら知っているであろう情報ですから問題はないですよ。それに法国相手ならともかく、そのほかの小国では例え戦端が開かれて我が国の中まで一次的に侵攻出来たとしても、じきに自国まで押し返されて逆激を加えられるのが落ちですし、下手をするとそのまま併合されるなんて事にもなりかねないですからね。誰もそんな事をしないと解っているのですよ」

 へ〜、そんなものなのか。
 でも、確かに大国相手では下手にちょっかいを出して恨みを買ってもいい事は何も無いだろうし、いちいち自分から虎の尾を踏みに来ようなんて考える者はいないという訳か。

 「後はそうですねぇ、夜の墓地には近づかないほうがいいですよ。なにやらこのごろアンデッドの出現率が少しずつですが増えているようなので」

 「アンデッドですか?」

 へ〜この世界ではダンジョンだけじゃなく、墓地にもアンデッドが湧くのか。
 そう言えば、アンデッドが湧くフィールドには墓石とかのオブジェクトがよく見られたっけ。

 「はい。ゾンビとかスケルトンのような弱いものだけなのですが、銅や鉄の冒険者も減っているし、先程のような事情で兵士の数も減っているので見回りがおろそかになっているみたいなんですよ。まぁ、これも戦争が終わるまでの一時的な話ですし、商売をする為の下見に来られた方にはあまり縁のない話ではあるのでしょうけどね」

 「そうですね、私も墓地を観光する趣味はないので、近づかないようにします。後、何かないですか?」

 そう言って笑い、まるんは話題を次のものに変えるよう促してリーナさんからいろいろな話を聞きだすのだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 すみません、今回も少し短いです。
 先週は8000文字を越えたのに今週は5000文字強です。
 先週の内の1000文字を今週に持ってこいと言う話なのですが、まるんの話はきりがいい所で終わらせないと何がなにやら解らなくなりそうなのでこんな感じになってしまうんですよね。

 さて、やっとアインズ様が出てきました。
 爵位名だけですけどね。
 因みに前に掲示板で終わりのほうに名前だけは出てくると書きましたが、別にこの章で終わるわけではありません。(名前、出てきてないしね)

 でも、終わりは見えてきました。
 ただねぇ、私の場合とにかく話が進まないのでそう簡単に終わりそうにも無いんですけどねw


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